詩人 吉田一穂 |
106
さびれゆく穀物の上
哀れなるはりつけの男
ゴッホの自画像の麦わら帽子に
青いシャツを着て
吊られさがるエッケホモー
生命の暮色が
つきさされてゐる
ここに人間は何ものかを
言はんとしてゐる
(西脇順三郎詩集「旅人かへらず」)
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
朝から東の畑の畝を整える。昨日買った玉ねぎ苗を植える。
そらまめも種をまく。残りの大根の種もまく。スナップエンドウもまく。
午後は仕事の準備に4時間没頭する。
夕方、蒔いた種を雉などの鳥に啄まれないために、脅しの糸を張りに行く。
江戸時代ここは伊勢神戸(かんべ)藩の殿様の狩り場だったので、
雉が多いのももっともだ。
「山中さんを支援する会」の、判決までの活動を考えた。
実効ある活動をしたい、と考え続けた。いろんなことをしようと思う。
やるしかない。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
秋
吉田一穂(「故園の書」より)
楚々として秋は来た。
物自体(デング・アン・ジッヒ)のきびしい認識を超えて、人を清澄なパンセにまでひきいれる像(もの)の陰影の深まさる時ーー汗と土と藁の匂い、収穫の穀物倉の簷(ひさし)に雀の巣が殖えていた。
納屋の隅でコオロギが鳴く。
空のヴァガボン渡り鳥の群れは、切り株畑に影をおとして再び地平の秋を旅立っていった。
霧の中で角笛が鳴っている。
放牧の群れが帰ってくる。
私は蘆のうら枯れた沼の辺りに下り立って、鼠色の湖心に移動する野鴨を銃口の先で焦点する。
空は北方から雲翳をみだしてくる。
草は北海の塩分を吹き送る東南風に萎れ、北風に苛だち、西風に雨を感知して、日に日に地表はむくつけき麤(あら)い容貌と変わってくる。父の如く厳つい自然よ、そして母の如くも優しく美しい季節よ!
いまだ火のない暖炉の中からコオロギの細い寂しい歌が聞こえてくる。明かりが机の上に暈(かさ)を投げる。
天蓋に銀河が冴えて横たはる。
プレアデスやアンドロメダ、天馬の壮麗なシステムが一糸みだれず夜々の天に秋の祝祭の燈をかかげる。
毎年、この時期には「秋」を読む。吉田一穂はほとんど知られない詩人であるが、私にとっては、西脇順三郎と双璧である。
0 件のコメント:
コメントを投稿